川内美彦先生の仮設住宅調査(2012年12月9日~11日)のご報告

事務局 安部大司

当法人の理事である川内美彦東洋大学教授が、所属する「日本福祉のまちづくり学会」の調査班と共に福島に来られ、下記の日程で、仮設住宅の調査や入居者へのインタビューを行いました。

●日程:1291011日の3日間

9
狐田応急仮設住宅、柴原応急仮設住宅(ともに三春町)
10日】
郡山市障害者福祉センターにて、仮設住宅入居者へのインタビュー(郡山市)
福島県建設センターにて、「木造仮設住宅群」の設計を担当した芳賀沼整氏へのインタビュー(福島市)
11
松川工業団地第一応急仮設住宅にて、管理人佐野さんへのインタビュー(福島市)
牛越第四応急仮設住宅にて、仮設住宅入居者へのインタビュー(南相馬市)

●メンバー:
川内美彦氏(東洋大学教授)
野口裕子氏(聖学院大学准教授)
稲田信之氏(有限会社アトリエ獏)
他、東洋大学の学生1

◆1日目(三春町)

初めに、三春町にある「狐田応急仮設住宅」、「柴原応急仮設住宅」を訪問しました。

狐田の集会所に着くと、今回のインタビューを段取ってくださった、有賀繁美さん(NPO法人うつくしまNPOネットワーク)がいらっしゃいました。

また、葛尾村の菅野さんをはじめ5人の仮設入居者の方もいらっしゃり、仮設住宅での生活について、お話しいただきました。

・室内には大きな段差があり、特に脱衣スペースから浴室に入るとき、また、洗い場から浴槽に入るのには大変苦労する
・壁が薄く、隣の住宅の音が筒抜けなので気が休まらない
・結露もひどく、窓だけではなく、天井から水が滴り落ちることもある

インタビューが終わった後、実際に住宅の中を見学させていただきました。

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

狐田応急仮設住宅(外観)

いわゆるプレハブタイプの仮設住宅です。
赤いパトランプは後付けで、高齢者の住む住宅にのみ取り付けたそうです。

狐田応急仮設住宅(内部)

天井ですが、写真中央から右側にかけて結露しています。
水の浸入を防ぐテープを張ってありますが、効果がありません。

寝るときに、顔にぽたぽたと水滴が落ちてくることもあるそうです。

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

狐田応急仮設住宅(段差)

浴室に入るところに段差があります。
何気ない段差に見えますが、高齢者にとっては、バリア(障がい)の一つです。

見学を終え、木造仮設住宅の建設に携わった阿部直人さんに、お話を伺いました。

実際に阿部さんが設計された仮設住宅を見に、「柴原応急仮設住宅」に向かいました。

柴原応急仮設住宅(外観)

阿部直人さんの設計された、木造仮設住宅です。

プレハブの仮設住宅よりもお洒落で、どこか温かみのある気がします。

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック
仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

柴原応急仮設住宅(隙間)

プレハブ仮設住宅と違い木造仮設住宅は、家と家との間に60cmの隙間が空いていて、隣の家の音が聞こえにくい防音設計になっています。

柴原応急仮設住宅(トイレ)

これだけフラットな床であれば、誰もが段差を気にすることなく生活できそうです。

この造りが仮設住宅のスタンダードになれば、仮設住宅での暮らしが格段に良くなるのではないでしょうか。

仮設住宅だけではなく、通常の住宅に取り入れても遜色のない造りです。

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック
仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

集合写真(柴原仮設住宅にて)

前列が、川内美彦先生です。
後列向かって左から順に、木造仮設住宅を設計された阿部直人さん、冨樫代表、野口祐子先生、稲田信之さん、一番右が、川内先生が教鞭を取られている東洋大学の学生さんです。

◆2日目(郡山市、福島市)

2日目は、朝から気持ちの良い晴天で、前日に降った雪が、午前中にはすっかり溶けていました。

午前中は、 郡山障がい者福祉センターにて、半谷克弘さん(福島県身体障がい者相談員)と、ビッグパレット横の仮設住宅に避難されている方のお二人にお話を伺いました。

その後、ビッグパレット横の仮設住宅を見せていただきました。

 

仮設住宅のユニバーサルデザインチェック

南一丁目応急仮設住宅

風除室が後付けではなく、最初から付いているタイプの仮設住宅です。

午後は福島県建設センターにて、当法人の理事である斎藤隆夫理事、また、「木造仮設住宅群」でグッドデザイン賞2012を受賞された芳賀沼整さんにお話を伺いました。

◆3日目(福島市、南相馬市)

最終日は、松川工業団地第一仮設住宅の管理人、佐野ハツノさんにインタビューをさせていただきました。

この仮設住宅は入居者の平均年齢が70歳を超え、超高齢化が進んでいますが、管理人の佐野さんの頑張りと毎月開かれる「いきいきサロン」というイベントにより、仮設内の雰囲気は良く保たれています。

その後南相馬に車を走らせ、青田由幸さん(NPO法人さぽーとセンターぴあ代表理事)の案内で牛越第四応急仮設住宅を見学し、全盲でありながらも、一人で仮設住宅で生活をされている女性に、お話を伺うことができました。

午後は、牛越応急仮設住宅の第一、第二を外側から見学、その後川内先生を福島駅まで送り、今回の調査が無事終了しました。

◆まとめ

12月9~11日の3日間、川内美彦先生の調査に同行させていただいた。
そこでは多くの応急仮設住宅を見学することができ、同時に、多くの素晴らしい人たちと出会うことも出来た。自分にとって、大変有益な経験になった。

今回の調査では、プレハブと木造の2種類の仮設住宅を見学したが、総合的に見て、木造仮設住宅の方が、よりユーザー視点に立った造りであることを、改めて実感した。
もちろん「フラットで段差のない造り」という点でも優れているが、木材の持つ質感、温かみを直に感じられるという点が、特に印象深い。
また、木独特の香りを感じられるのも、大きなメリットである。被災者の傷ついた心をやさしく癒してくれるだろう。

プレハブ仮設住宅よりも工期がかかるというデメリットはあるが、今後の工夫次第では、その課題をクリアすることが可能になるかもしれない。木造仮設住宅が災害時のスタンダードになることが、「仮設住宅のユニバーサルデザイン化」の一番の近道ではないだろうか。

今回、インタビューでもたくさんの人にお世話になった。
出会った方々は、誰もが生き生きと輝いていて、素晴らしい人ばかりだった。

中でも、最も印象に残ったのは、南相馬の仮設住宅で暮らしている、視覚障がい者の女性だ。
目が不自由であると、かなりの部分で生活に支障をきたすのではないかと、自分は思っていた。

しかしそれは偏見だった。彼女は、買い物以外の日常生活のほぼすべてを、自分一人の力でやってのける。炊事、洗濯、入浴、あらゆることを自分でやる。
テレビが大好きで、ドラマも毎日見る(聴く)という。

また、大変な読書家でもある。CDブックを図書館から「あいうえお順」に借りていって、館内の全てのCDブックを読み干したという。話し方もはきはきしていて、言葉の端端に知性を感じる。汗牛充棟という言葉は、彼女のためにあるといっても過言ではない。

大きなハンデを背負いながらも、これほど前向きに生きる人には、そうそう出会えるものではない。
この前向きさは、自分も見習わなければならない。

今回は、仮設住宅の見学も、インタビューに関してもも、内容の濃い経験をすることができた。
調査に関わった全ての方に、この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。